2024/09/11

派遣の抵触日とは?事業所単位・個人単位の意味をわかりやすく解説

派遣の抵触日とは?事業所単位・個人単位の意味をわかりやすく解説

派遣社員の契約期間には、3年という期限があります。この期限を「3年ルール」と呼びますが、働き始めて3年が経ち期間満了となったときに、派遣契約がどうなるのかご存じでしょうか。 派遣の期間制限を過ぎた翌日を抵触日といいます。抵触日について理解を深めることで、派遣社員としていつまで働けるのか、その後はどう対応すべきなのかが考えやすくなるでしょう。

この記事では抵触日の概要と、抵触日を迎えたあとに何をすべきなのかを紹介します。なかには抵触日が適用されない方もいるため、派遣社員として働ける期間を見直す際の参考にしてみてください。

この記事でわかること
  • 派遣の抵触日とは何か
  • 「事業単位」「個人単位」の違い
  • 派遣の抵触日が適用されないケース
  • 派遣の抵触日を迎えると派遣会社・派遣社員はそれぞれどうなるのか
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派遣の抵触日とは

労働者派遣法の改正によって、2015年から同じ事業所で3年以上働くことが禁じられました。派遣の抵触日は、この改正に紐づく内容となります。 ここでは派遣の抵触日の概要を見ていきましょう。

派遣社員の受け入れ可能期間が経過する翌日のこと


派遣の抵触日は、派遣可能期間が満了した翌日を指します。派遣可能期間は、2015年に施行された「労働者派遣法」の改正によって定められており、原則3年間を上限としています。 例えば2023年9月1日に派遣契約を結んだ場合、3年が経過した2026年9月1日が派遣の抵触日です。「抵触」というと難しい印象を受けますが、抵触日は「働けなくなる期限に触れる日」という意味です。

上の図でいうと派遣で働ける最後の日は2026年8月31日で、この時点ではまだ期限に触れていません。働けなくなる期限に触れ、働けなくなる最初の日は翌日の9月1日なので、抵触日=働ける最終日(3年後)の翌日となるのです。なお派遣先企業は、派遣会社(派遣元企業)に抵触日の通知を行うよう義務付けられています。

抵触日が設けられた理由

派遣に抵触日が設けられた理由として、派遣として働く方の雇用安定・キャリアアップを推奨する考え方が背景にあります。派遣労働者は直接雇用よりも人件費が安く、採用活動や労務管理の業務を削減できるため、派遣先企業が直接雇用をせず単純な労働力として派遣労働者への置き換えを始めてしまうかもしれません。

すると、労働者側は長期間直接雇用されないことにより雇用の安定が脅かされ、キャリアアップの機会を奪われる結果となります。派遣の抵触日は、このような状況の改善を目的として3年の上限が設けられています。

また、派遣労働者の受け入れから3年が経過し、新たに派遣労働者を雇い入れる場合は、3年間受け入れた派遣労働者を直接雇用に切り替える努力義務も設定されました。このように抵触日の創設により、派遣先企業でも直接雇用による安定した雇用とキャリアアップの促進が図られるようになったわけです。

派遣の抵触日は「事業所単位」と「個人単位」の2種類ある

派遣の抵触日は大きく分けて「事業所単位」と「個人単位」に分けられます。ここではそれぞれの内容を詳しく見てみましょう。

事業所単位の抵触日

派遣労働者の受け入れは、同じ事業所において3年までと定められています。事業所単位の抵触日は、この3年が経過した次の日です。この期間は派遣労働者一人ごとの制限ではなく、一つの派遣先企業に対する派遣労働者全体の制限となります。

例えば1年前からAさんが働いている企業でBさんも働き始める場合、Aさんが先に1年働いていたため、Bさんが派遣として働ける期間は2年です。

事業所単位の抵触日
ただし、以下の2つの場合、この期間が延長されます。
  • 過半数労働組合等への意見聴取がなされた場合
  • 一旦派遣を終了後、再開時にクーリング期間経過している場合

それぞれの延長の内容を紹介します。

延長可能なパターン1:過半数労働組合等への意見聴取

過半数労働組合等への意見聴取の説明

派遣先企業は過半数労働組合または過半数代表者へ意見聴取を行い、派遣受入に関する同意を得る等の延長手続きを抵触日の1ヵ月前までに完了することで、事業所単位の派遣可能期間を延長できます。多くの派遣先企業は3年で派遣を打ち切るのではなく、この延長措置により派遣可能期間を延ばしています。

意見聴取は派遣労働者が働く事業所単位で行う必要があります。延長手続きを本店で行う場合でも、各支店や営業所ごとに意見聴取を行わなければ、派遣可能期間は延長されません。

延長可能なパターン2:クーリング期間を経過する

クーリング期間とは、派遣可能期間の通算期間がリセットされる期間のことです。期間は3ヵ月と1日以上となっており、派遣を終了したあとにクーリング期間を経過することで、事業所の抵触日までの通算期間がリセットされ、また新たに3年受入が可能となります。

クーリング期間を経過した場合の説明

ただし、過半数労働組合などへの意見聴取を回避する目的でクーリング期間を設けることは、法の趣旨から外れるとされており注意が必要です。企業側が同一の派遣社員に引き続き働いてほしい場合は、直接雇用の申し入れが推奨されています

クーリング期間が適用されるケースとして、直接雇用している従業員で事業を回せるようになったことで、派遣労働者の受け入れを止めた企業があげられます。

その後、再び手が足りなくなり、また派遣労働者を受け入れようとするとき、3ヵ月と1日以上の期間が空いていれば、新たな派遣契約として受入が可能になります。

クーリング後の抵触日は新たに3年となりますので、当然以前の抵触日の延長は不要となり、延長措置である意見聴取の必要はありません。

個人単位の抵触日

派遣労働者が同じ組織(部署・課)で働ける期間は最長3年までと定められており、3年が過ぎた翌日を個人単位の抵触日として扱います。派遣可能期間は事業所単位で延長できますが、派遣可能期間が延びたとしても派遣社員は同じ組織で3年を超えて働くことができないため、同じ事業所で働き続ける場合は別の組織に異動しなければなりません。

個人単位の抵触日の説明

Aさんが総務課1係で3年間働き、過半数労働組合などへの意見聴取により事業所単位の抵触日が延長されたとします。その場合でも総務課1係や2係といった同一の組織では働けず、営業課のように異なる組織への異動が必須です。

なお、新たに派遣労働者Bさんが働き始める場合は、総務課1係や2係などこれまでAさんが働いていた組織で働くことができます。

個人単位でのクーリング期間を経過した場合

個人単位の派遣可能期間でも、クーリング期間を経過することで期間の延長が可能です。ただし、これまでと同じ派遣先企業で働ける保証がないことは覚えておきましょう。

また、派遣労働者の希望がないにも関わらず引き続き同じ派遣先に派遣することは、キャリアアップの観点から推奨されていません。もし延長したい場合は、同一の企業で働きたい気持ちと理由を派遣会社(派遣元)に伝えましょう。

補足:派遣の抵触日は事業所単位が優先される

個人単位の派遣可能期間が残っていたとしても、事業所単位の抵触日を迎えたときには、事業者単位での派遣可能期間が優先されて契約が終了することを覚えておきましょう。

仮に2023年9月1日から派遣先企業で働いた場合、個人単位の抵触日で考えれば2026年8月31日までは働けます。しかし、事業所単位における抵触日が2025年9月1日であれば、派遣先企業で働ける期間は事業所単位の抵触日を優先した2025年8月31日までです。

事業所単位が優先されることについての説明画像

ただし、派遣先企業が抵触日の延長手続きをとった場合は、個人単位の抵触日を迎えるまで働けます。

派遣の抵触日が適用されない場合もある

以下に該当する場合、派遣の抵触日が適用されません。

  • 無期雇用の人
  • 60歳以上の人
  • 終期が予め定まっている有期のプロジェクト業務
  • 日数限定業務
  • 休業(産前産後・育児・介護)を取得中の従業員の代替業務

なぜこれらに該当する場合、抵触日の適用外となるのか詳しく解説します。

無期雇用の人

無期雇用の派遣とは、期間を定めない雇用契約(無期雇用派遣)を結んだ労働者を指します。そもそも抵触日が適用される対象は有期雇用の派遣労働者であり、無期雇用の労働者はこのルールが適用されません

無期雇用をはじめとした派遣の雇用形態については、以下の記事でも解説しています。

60歳以上の人

派遣業務の開始日、または開始日から3年が経過した時点で60歳以上になる場合、抵触日は適用されません

これは高年齢者の雇用の安定と活躍を推進するという背景があり、60歳以降も労働者自身と派遣先企業、派遣会社(派遣元)の同意があれば、期間の制限なく働き続けることが可能です。

終期が定まっているプロジェクト

一定の期間内に完了することが予定されているプロジェクトに参加する場合は、派遣の抵触日が適用されません

このプロジェクトは例えばオリンピックや万博などが該当します。プロジェクトの期間に制限はなく予め3年を超えたものでも問題はありませんが、終期は明確でなければならないとされています。

日数限定業務を行う人

派遣先で非定型的に発生した業務を行う場合など、日数限定で派遣社員として働く際は、以下の条件どちらも当てはまることで3年ルールの適用外となります。

  • 1ヵ月の勤務日数が10日以下
  • 1ヵ月の勤務日数が派遣先で働く通常の従業員の半分以下

住宅展示場における週末のみのコンパニオンや、書店の棚卸しなどがこれに該当し、繁忙対策としての人員補充は非定型の業務とはいえないため該当しません。

休業(産前産後・育児・介護)を取得中の従業員の代わりに派遣される人

派遣先企業の従業員が、産前産後・育児・介護を理由に休業を取得する場合、代わりに派遣される方には抵触日が適用されません。抵触日の適用によって派遣労働者の就業が終了し、出産や子育て、介護をしている従業員が復帰せざるを得ない状況にならないよう配慮されたルールです。

派遣の抵触日を迎えてしまった場合はどうなる?

派遣の抵触日を迎えたあとの対応は、派遣会社(派遣元企業)と派遣労働者で異なります。特に派遣労働者はその後の働き方にいくつかの選択肢があるため、抵触日を迎える前に自身の希望を固めておきましょう。

ここでは、抵触日を迎えたあとの流れを派遣会社(派遣元企業)と派遣労働者に分けて紹介します。

派遣会社(派遣元企業)

抵触日を迎えたにもかかわらず継続して派遣労働者を派遣した場合、派遣会社(派遣元企業)に対して30万円以下の罰金が科されます。また、派遣会社(派遣元企業)と派遣先企業に行政指導が入り、指導に従わない際は企業名が公表される可能性があるなど、信用を失う違反となりますので、どの派遣会社も抵触日管理は派遣先企業と連携を取りつつ慎重に行っています。

派遣労働者が罰則を受けることはないものの、派遣の抵触日は派遣契約を結ぶ際の就労条件明示書に記載されているため、あらかじめ確認しておくと安心でしょう。また、自身の抵触日や働ける期間について不明な点があれば派遣会社に質問するようにしましょう。

派遣労働者

派遣の抵触日を迎えた派遣労働者は、派遣先・派遣元との協議や提案を経て、以下の4つの働き方からあたらしい選択肢を選ぶことになります。
  • 派遣先に直接雇用されて働く
  • 同じ派遣先企業の別の組織(部署・課)で働く
  • 別の派遣先企業で働く
  • 派遣会社(派遣元企業)を退職して自分で見つけた企業で働く

まず、3年以上同じ会社の同じ部署(職場)で働きたいという希望を持っていても、派遣労働者は法律上契約の上限により働けなくなります。そのため、派遣会社(派遣元企業)は派遣労働者に対して雇用を安定させるための支援を行うよう法律で定められています。この措置は「雇用の安定を図るための措置(雇用安定措置)」と呼ばれるものです。

なお、前述で説明した抵触日が適用されない人(無期雇用・60歳以上)はこの支援対象から外れます。

雇用の安定を図るための措置(雇用安定措置)

同一の事業所で3年派遣される見込みとなる場合、派遣会社(派遣元企業)は、雇用安定のため以下のいずれかの措置を講じる義務が発生します。

  • 派遣先への直接雇用の依頼
  • 新たな派遣先の提供
  • 派遣会社(派遣元企業)での(派遣労働者以外としての)無期雇用
  • その他、雇用の安定を図るための措置(紹介予定派遣とするなど)

派遣労働者が派遣先企業に直接雇用を希望する際は、派遣会社(派遣元企業)が依頼の対応をします。また、労働者は派遣先ではなく派遣会社(派遣元企業)へ直接雇用を希望することもできます。

派遣会社(派遣元企業)はこの取り決めにしたがって、期間制限を迎えようとする派遣労働者のために、働いていた派遣先企業に対し直接雇用を依頼します。ですが、依頼が必ずしも受け入れられるとは限らないため、直接雇用が出来ない場合は、次の提案として派遣労働者の希望条件に合う新たな就業先や、自社で正社員として雇い入れる紹介予定派遣等を実施します。

もちろん、依頼の中で派遣先企業から配置転換や派遣労働者にとってキャリア形成上で実りある提案があり、派遣労働者の意向とも合致すれば、派遣先企業の別の部署で働くという道もあり得ます。

このように、抵触日後もできるだけ多くの選択肢からよりよいキャリアを踏み出せるよう、派遣会社が支援を行います。

また、前述の選択肢の中で最も魅力的に映るのは派遣先への直接雇用かもしれませんが、直接雇用されたからといって必ずしも正社員になれるとは限らず、アルバイトやパート、契約社員といった雇用形態も選択肢となります

さらに業務内容・労働日数・給与・残業の有無などが変化する可能性もあるため、契約前にきちんと確認しておきましょう。

続いて、直接雇用以外の働き方についてもう少し詳しく解説します。

同じ派遣先企業の別の組織(部署・課)で働く

前述したように、事業所単位で延長措置を行い別の組織へ異動することで、抵触日のあとも同じ派遣先企業で働き続けることが可能です。しかし、異動によってこれまでと大きく環境が変わるケースも想定されます。場合によっては、今まで得られた経験やスキルを活かしづらくなり、人間関係に悩みを感じることがあるかもしれません。

同じ派遣先企業の別組織で働くことを希望しているのであれば、異動先の情報を事前に集めておくと、配属されたときの認識違いやトラブルを防ぎやすくなるでしょう。

別の派遣先企業で働く

さまざまな企業で経験を積みたい場合、派遣の抵触日を一つの区切りとして、別の派遣先企業へチャレンジするのも手です。外資系企業のように正社員では入社が難しい企業も、派遣社員であれば就業しやすいでしょう。

異なる業種への挑戦はもちろん、同じ業種のままスキルアップもしやすい点は、派遣社員の大きな魅力です。未経験可の求人も多く、場合によっては自身の希望条件が叶う形での正社員雇用も目指せるでしょう。

派遣会社(派遣元企業)を退職して自分で見つけた企業で働く

派遣可能期間の終了をきっかけに、退職を選ぶこともひとつの手です。派遣元企業のバックアップは受けられなくなりますが、自身の力で経験を活かしてキャリアチェンジをすれば、視野を広げつつさらなる成長が見込めるでしょう。

しかし、キャリアチェンジ直後は年収が下がりやすく、これまでより責任が大きくなるケースもあります。また働くうえで生じた問題はすべて自分で解決方法を考えて動かなければなりません。派遣社員として働くメリットと比較したうえで、退職後の働き方を検討してみてください。

派遣の抵触日について|まとめ

派遣の抵触日は、派遣可能期間が満了する翌日を指します。抵触日には「事業所単位」と「個人単位」の2種類がありますが、事業所単位と個人単位で抵触日が異なる場合は、事業所単位の抵触日が優先される点に注意しましょう。

抵触日以降は、本人の希望を考慮したうえで働き方を選択することとなります。希望次第では、直接雇用・期間の延長によって引き続き同じ派遣先企業で働くことも可能です。

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この記事を書いた人

ワークスタッフ コラム制作チーム

人材派遣業務を展開しているワークスタッフのコラム制作チームです。人材派遣に関連した情報をコラムを通じてお届けします。平成10年から携わってきた労働者派遣に関する情報を、当社の経験を踏まえて正しくわかりやすくお伝えします。